断崖のアイ
立ち上がった刹那──ドシンという音が遠くから聞こえて、建物が鈍い振動を伝えた。
「! 泉か? それにしては早い」
暗闇から電灯の下に出てくると、警報が先ほどよりも大きく鳴り響いている。遠くに聞こえる多くの足音は、かなり慌てているようだ。
続く爆音に警戒しつつ、赤い絨毯の敷かれた通路を進む。鉢合わせした相手に麻酔針を放ち歩を進めていくが、聞こえてくる音に眉をひそめた。
「泉たちではない」
では、誰だ?
伝わる動きが、知っている者とは異なる。長らく付き合わされている組織の動きなど、とうの昔に把握した。
誰かは解らないがとにかく、相手の動きに合わせるようにこちらも動いた方が良さそうだ。
攻撃してきた相手の数は少ないようだが、建物全体を取り囲むように動いている。この動きにはどこか覚えがあった。
予想した人物を思い浮かべながら、状況を把握しきれずにパニック寸前になっているサタニストたちの間を駆け抜ける。