断崖のアイ
「!?」

 驚く男を見つめて内心、相手の腕の良さにホッとする。男はますます悔しさを募らせたのか、奥歯をギリリと噛みしめた。

「神が人間に何をしてくれたというのだ! 信仰心のみを求め、己の意に沿わなければ災害をまき散らす。真に人を理解するのはサタンだ」

 灰緑色の髪を短く揺らし、漆黒の瞳を恍惚と細める。

「サタンは人の負の部分を喰らい尽くす存在です。決して人の善き部分に触れることはありません」

「人は闇にこそ、その存在を輝かせるのだ」

「人は闇の中で輝きを放ちます」

 互いに相容れない信仰と感情を再認識したに過ぎない──男の瞳に憎しみが見て取れて、ユーリは何故だか胸が締め付けられた。
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