断崖のアイ
「そこまで憎む理由が、あなたにあるのですか」

「なくてはいけないのか。人は堕落してこそ、その本質を得られるのだ。神の使徒どもはそれをことごとく阻止してきた」

「……あなたは」

 苦々しい表情を浮かべたユーリをぎろりと睨み付けて、懐に手を差し入れた。

 そこから何が出てくるのか予想はついている──ユーリは体を強ばらせ、それに身構えた。

「人はサタンの名においてこそ人なのだ!」

 黒い塊を掴んだ手がユーリに向けられたと同時に、彼の頬を何かがかすめて男に走った──

「がふっ!?」

 呻き声の主に視線を向けるも、目の前にある影がそれを遮断していた。
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