断崖のアイ
 案内されたのは空港から車で数十分の小さな教会──白い木造の建物は謙虚さを物語る。

「!」

 車から出ると、教会からキャソックを着た老齢の男性が姿を現した。この教会の神父だろうか、青年を見る目が少し険しく感じられる。

「ユーリ・ヘフナーです。よろしくお願いします」

「名前と顔くらい連絡が来ておるよ」

 いつもは優しい笑みを湛えているであろう男性の口調はやや冷たい。青年はそれに苦笑いを浮かべた。

「裏ヴァチカンの面倒に巻き込んで欲しくはないがね」

「!」

 険のある物言いで教会の中に促す。

 都市の中心にある教会ではないためか、中も質素な造りだ。それでも祭壇の背後にあるキリスト像と、色鮮やかなステンドグラスは厳粛な気持ちにさせる。

「部屋は自由に使ってくれたまえ」

「ありがとうございます」

「君は」

 それだけ交わすと背中を向けた神父が、思い出したように口を開いた。

「自分のしていることに誇りを持てるかね?」

「ええ、もちろん」

 返された言葉に小さく頭を振って無言で去っていく。

「仕方ありません。我々とは志が異なるのですから」

「そうですね」

 ヘインズの言葉に微笑んで、あてがわれた部屋に向かった。
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