断崖のアイ
 どちらにいても溶け入りそうな美しさをベリル見せていた。

 それがユーリを不安にさせ、命を懸けて捕らえ封じた方がいいのではと思わせる。しかしすぐ、それを想像して頭を振った。

 現代建築と煉瓦造りの建物が人の歴史を語る──そして自然は人を癒す。

 では、誰が彼を癒すのか?

 ユーリは時折、小さく微笑むベリルの横顔を見つめる。

「私はどこに向かえば良いのでしょうか」

 ぼそりとつぶやいた青年の言葉に、ベリルは立ち止まる。

「私に示す術(すべ)はない」

 冷たいと思える言葉なのに、どうしてか温かかった。

 全てを赦す存在がここにある……ユーリは静かに瞼を閉じた。

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