断崖のアイ
 幾つ目かの自然公園には、人々の明るい声が響き楽しげに会話をしたり遊んでいたりしている姿が見られた──そんな風景を眺めていると、自分たちの置かれている現状がまるで夢のようだとユーリは感じられた。

 多くの人には見えない世界が存在している。

 それぞれが微妙なバランスを保ち、曖昧な範囲で人の生活は続いて行く。己の置かれている位置にどう納得出来るのか、はたまた変える事が出来るのか。

 ユーリにとっては、いま目前に見えている世界を見る事が出来ない。

 幼少の記憶はすでに遠い過去だ──暖かな世界にはもう戻れない。

 何故だろう、父なる神のためにと強い意志で臨んでいるのに、それが暖かな世界で彩られたモノだとは言い難く胸を締め付ける。
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