断崖のアイ

[グルルル……]

 ベリルは、戻ってきた獣を静かに見下ろす。

 太い毛に覆われた体は背骨が折れ曲がったように丸まり、微妙に鼻の辺りが長い。獣なのか人間なのかと思わず問いかけたくなるような容貌だ。

 黄金に輝く瞳がベリルを射抜き、決して逃さない事を示していた。

「お前はどちらを望むのだ」

 ゆっくりとささやくように発せられた言葉に、ライカンスロープは咆哮(ほうこう)で応える。

「そうか」

 その意思に小さくつぶやき、ベリルは背後のダガーを手に取る。

 独特の木目模様は、映り込む獣の姿を歪んで表し出す──鈍い輝きに躊躇いつつも、その獣はベリルに飛びかかった。
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