断崖のアイ
[オレを、受けいれてくれる者、ここにイタから]

「!」

 口の端を吊り上げて、苦しげに笑みを見せた男に眉をひそめた。

[だから、モウ充分なんだ]

 お前が言った通り、価値があった。なんと素晴らしいこの充実感……かすれた声がベリルの耳にいつまでも残った。

 動かなくなった獣は、ゆっくりと人の姿に戻っていく。

 最後に聞こえた言葉は彼の名前だった。いつまでも忘れないでいてくれと願うように、ベリルを見つめたあと全てを停止した。



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