断崖のアイ
「戻ったのではないのか」

 その問いかけに声を詰まらせる。

「いなくなったのかね」

 2年も前に別れた人間の事を尋ねられても知る由もないと思いつつ、深刻な面持ちのアイアスについ声をかけてしまう。

「貴様には関係ない」

 言い放ち、男は遠ざかった。

 あれだけの事をしてユーリを取り戻したのだ、動揺するのも当然だろう。家族のように思える存在がいるのは、多少の羨ましさを感じる。

 望んでも得られない感情をむやみに求めるのもどうかと切り替えて、空に目を向けた。

 ユーリにとって、途中で連れ戻された事は不本意だったろう。彼が何を求めていたのかベリルには解らなかったが、少なくともあの時点でその答えを見つけていたとは思えない。

 何を求めてベリルの背中を追っていたのだろうか──いつか、それを知る時が来るのだろうか?

 もし、彼が答えを見つけていたならば、それは叶うかもしれんな……ベリルは一度、目を閉じてその場をあとにした。

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