断崖のアイ
 落ち着いた色のパンツとジャケットを着こなし、右の腰に覗くロッドにベリルは目を細める。

「アイアスが探している」

 探るように発すると、ユーリはそれに動じることもなくベリルの声を懐かしむように微笑んだ。

「何故だ」

 青年の変わりように低く問いかける。

「誰しもが一度は争いのない世界を夢見るのでしょう」

 青年はベリルから視線を外し、静かに応えた。

 聞いている事を確認するようにひと呼吸置いて続ける。

「しかし、それは本当に夢でしかないと思い知らされる。そして自身を突き詰めていくと、人という存在自体の根本にたどり着く」

 目を閉じて、話すことをまとめているのだろうか、呼吸を長く深くし瞼(まぶた)を開く。

「人だけでなく、生物個々の概念においては、それぞれに悩み戦っているのかもしれません。それは、この次元に存在するものの必然的なものなのでしょう」

 人だから争うのではない、この次元の存在だから争い合うのだ。
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