断崖のアイ
「大丈夫ですか?」

 しばらく走らせて沈黙したままの青年に声をかける。

「はい、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」

 ニコリと微笑み返した。

 少し目を伏せ険しい表情を浮かべる。緊張が自然と高まり、拳を強く握りしめた。悩んでたって仕方がない……とにかく回数を重ねて何かを掴まなければ。

 港の近くで車を止め、ゆっくりと海の方に歩いていく。ひと気のまばらな港は潮の香りが心地よく、うろこ雲が太陽の日射しを和らげている。

「!」

 確認しなくても解る背中を視界に捉えると、警戒しながら近づいた。相手は微動だにしないが、こちらの存在には気付いているはずだ。

 金の髪が海風で小さく揺れる落ち着いた後ろ姿に、こちらばかりが緊張しているのが馬鹿らしく思えてきた。

 すぐ後ろに来ても反応を示さない。呆れて隣に立った。

「よくも来た」

「!」

 感心するような口調で発せられ、横顔を見やると小さく笑っていた。
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