断崖のアイ
「あなたを捕らえます」

 ロッドを振って伸ばすと彼はそれに目を細め、近くにあった1mほどの鉄パイプを手にした。

「!」

 いくら同じ棒状のものとはいえ、素材はまったく異なる。ぶつかり合えば鉄パイプなど容易く壊れてしまうというのに、彼はそれで闘うつもりらしい。
 どこまで馬鹿にすれば──!

 素早く駆け寄り棍を振り下ろすと鉄パイプを前にした。このまま振り下ろせば鉄パイプは破壊され、棍は彼の肩に直撃する。

 鉄パイプが棍と接触した刹那──「!?」ガクンとバランスを崩した。体勢を立て直せずに前のめりになる。

 そんな青年を無表情に片手で受け止めた。

「……っ」

 慌てて起き上がり距離を置く。

「受け止めるだけとは思わない事だ」

 あの瞬間、全ての衝撃を受け止めず力を抜いて流した。受け止めると思っていた側は、突然の事にバランスを崩してしまう。

「そんなこと……解っています」

 解っていて対応出来なかったのなら解らないのと同じだ。奥歯を噛みしめて己を督責(とくせき)した。

「名を聞いていなかったな」

「! ユーリ・ヘフナー」

 それだけ聞くと、また口をつぐむ。
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