断崖のアイ
「そんな理由で引鉄(ひきがね)を引いた訳ではあるまい」

「!?」

 少し詰まった声色に、撃たれているのだと気がつく。

「当然でしょ、商売敵は1人でも減らしておかなきゃ」

 その言葉に女を見やる。30代前後だろうか、スタイルが良くグレーの瞳からは勝ち気な性格が見て取れた。ファッション製の高い草色をしたミリタリー系の服装から察するに、この女はハンターだろう。

 金次第で殺人すらもいとわない狩人だ。

「動かないでね」

 微笑んで右手のハンドガンをそのままに、左で別のハンドガンを取り出した。

「──っ」

 ベリルはその瞬間、左手で青年の懐からハンドガンを抜いた。構えながら体をずらしたが、大きな音と共に右腕が吹き飛ぶ。

「がぁっ!」

「ベリル!?」

 痛みで片膝をついた彼に思わず駆け寄り女に目を向けると、顔を歪ませてへたり込んでいた。その体には右肩と左太ももに銃弾を受けている。

 彼は女と青年を一瞥すると、痛みをこらえて立ち上がり出来るだけ急いでその場を離れていく。どうしようかと少し戸惑い後ろ姿を追った。
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