断崖のアイ
 照れ笑いを返すと、初老の男性は部屋に足を踏み入れて「ふむ……」と青年を見やる。

「そんなに難しい相手なのかね」

「わたしでは力不足なのは確かです。ただ、それだけじゃなくて知りたいことが沢山あるというか……」

「捕まえようとする相手に心を開かないのは当然だろうな」

「ええ」

 彼の場合はそういうものでも無い気はしないでもなかったが、話す気分になってくれないのは確かだろう。

 彼の表情が読み取れないため、話す気分にさせることは至難の業だ。

 50年近くも追われ続けている彼がすぐに心を許してくれるとは思えないけれど、少しでも歩み寄れたらとは思う。

「あまり考え過ぎんようにな」

「はい。ありがとうございます」

 微笑んで肩を叩いた彼の背中を見送り、再び1人で思案した。

「そうだ、彼は我々の目から逃げられないじゃないか」

 とにかく会って質問していけばいい。相手もいつかは根負けするに違いない……嫌われるという事もあり得るが、とことん嫌われるまでやってみようとも考える。

「見た目で忘れてしまいそうになる。彼は80歳なんだ」

 一般の人間と同じ意識や感覚とは異なる事を理解しなくては……
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