断崖のアイ
「確かに彼はまだ若く経験も浅いですが、そこに転機があるかもしれません」

「ふむ……希望的見地だな。それも仕方あるまい」

 柔らかく発し、再び会釈した司祭に目で応え遠ざかった。その背中を見つめて小さく溜息を漏らす。

 彼を弟のように思っているアイアスにとって、成功してほしいと切に願うばかりだ。

 奴を捕らえると決定が下されてから数十年……最も神に背く存在であるはずの男が未だにのうのうと渡り歩いている。

 それでも、向かわせる人間を1人も殺めていない事実から少しの安心がある事は否めない。死は神の元に召されるものだが、命を奪われれば悲しみや憤りを感じない訳ではない。

「失敗しても構わない」

 諦めて戻ってきてくれても構わない……まぶたを強く閉じて心からそう祈った。
< 42 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop