断崖のアイ
「そのような者の言葉など聞くに値するものかね」

「……あなたはご自分のことをどう思っているのですか」

 聞き返されて柔らかに微笑む。

「私にとってはどちらでも構わない」

 思ってもいなかった言葉が返ってきて目を見開いた。

「私の見方の一つに過ぎない。この風景を見ている私とお前とでさえ、同じ見方をしているとは限らないのだから」

 私が私である事に外からの目は意味を成さない──揺るぎのない意志を持つ言葉に、息をするのも忘れて見入った。

「理解してもらう努力も理解しようという努力も必要だがね」

 しかし、それは彼にとってはほど遠い。そもそも「理解」という言葉で済む話ではないのだから。

「私の何が知りたい」

「!」

 話してくれる気になったのかと思わず笑みがこぼれた。

「あなたが造られた理由を」

 彼は少し目を伏せたあと青年に視線を合わせる。灰色の雲が重く空を覆い、その姿を酷く浮き立たせた。
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