断崖のアイ
 まだ納得出来ない部分はあるけれど、このまま追い続ける事が正しいのかも解らなかった。思えば、初めて彼を目にした時の言いようのない不安と恐怖は己の内にある心だったのかもしれない。

 彼は鏡のように相手を映し出す。自身の心に問いかけろとでも言うように、その瞳を向ける。

 鏡の向こうにある彼の心は、自身を解き放つ事でしか垣間見る事は適わないのだろうか……わたしには到底、出来そうもない。

 ドアをくぐる足が止まる。そのとき、

「ユーリ? ユーリじゃないか!」

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはかつてハイスクールで共に学んだ友が笑顔で立っていた。

 驚きつつも、懐かしい面持ちに笑みを浮かべる。

 あせた栗毛に青い瞳、快活そうな青年はユーリに握手を求めた。

「お久しぶりです」

 それに応えて言葉を返す。

「相変わらず真面目だな。まさかこんな所で会うなんて。確か神父になったんだよな、どうしたんだ?」

「研修ですよ」

「ふうん、そんなのあるのか」

 ユーリが所属しているのは匿名性の高い組織だが、表の人間と関わる事は許されている。友人、両親に会うこと、旅行や遊びに出かけることも構わない。
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