断崖のアイ
　およそ８０年前──アルカヴァリュシア・ルセタ。

　ヨーロッパのなかほどにある小国はイタリアを思わせる風景と、緑が目に映える拓けた地域だ。

　ほとんどを輸入に頼らなければならないほどの領土しかないがバイオ技術に優れ、それに関する技術の輸出で国益がまかなわれている。

「教授」

「！」

　呼び止められて４０代後半の白衣に身を包んだ男性は振り返った。白髪交じりの髪に鋭い眼差しは威圧的にさえ感じる。

　呼び止めた青年は同じ視線の高さに応える。

「生命の脈動が確認されました」

「！　そうか。ナンバーは」

「６６３０～６６５０と６６６６です」

　その言葉にピクリと片眉を上げた。

「では、いつものようにチェックを頼む」

「はい。結果はまたご報告します」

「よろしく」

　青年の背中に返し、険しい表情を浮かべる。
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