断崖のアイ
 緑色の高い塀と白い壁で満たされた施設──国家機密クラスの遺伝子研究所は陸軍の基地と並ぶように建てられていた。

 森の奥深くにひっそりと存在する建物は人工生命体を作り出す研究を10年以上も前から続けている。

 小さな基地ではあるけれど、研究しているものを考えればやや安心する。

 ベルハース教授は、この国の最高峰に位置するバイオ科学に秀でた人物だ。彼が持ちかけてきた計画だったが、躊躇していた10年前と違い成功を続けている研究は今や国家にとっても重要な事業の一つとなっていた。

 その研究における副産物は諸外国に向けての技術輸出を生んでいた。

 医療だけでなく軍事的にも多用出来ないかと考えている事は明白だが、成功を続けているとはいえ全体に比べればまだまだ確率は低い。その半数以上が正常体とは言えないからだ。

「チェックが済んだら次の作成に入らねばな」

 つぶやいて研究室に足を向ける。

 国家機密である施設にいる研究員はその重要性から外界との接触を一切、許されてはおらず必然的に施設は大きくなっていった。

 一定間隔での作成とチェックにベルハースはいつも落胆の色を隠せない。理想とする生命体は未だに出来ず、6000体以上も費やされているとは嘆かわしかった。

 彼の理想のだめだけに造られ、時には消えていく命──名前さえも付けられず、番号でのみ育成と研究を繰り返されていく。
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