断崖のアイ
 大学にいた時から彼から聞かされていた夢物語には正直、あまり興味はない。思想は人それぞれなのだからと聞き流すくらいにはハロルドは柔軟だった。

 それ以外ではとても気の合う友人であるため、今でもつきあいは続いていた。お互い分野は違うが刺激しあった仲でもある。

「私で良いのかね」

 ハロルドは改めて問いかけた。

「君でなければ私の求める存在には出来ん」

 私の望む存在をつぶさに語ってきた君にこそ、この偉業は成し得られるのだ。

「偉業ね……」

 相変わらずの男に薄く笑う。

「で、その子の教育はいつから──」

「明日からだ」

「! まだ赤子だと聞いたが……」

「耳は聞こえている」

 冗談かと思ったが、合わせる視線にそれらは感じ取れずハロルドは一瞬ゾクリとした。

「ベリルに不備はない」

「……ベリル? 赤子の名か」

「よろしく頼むよ。神の隣に座す者として育て上げてくれ」

 瞳に宿る輝きに戸惑いながらも彼は無言で小さく頷くのだった。
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