断崖のアイ
*蜘蛛の糸
ハロルドは目の前の光景をジッと見つめる──白衣を着た女性が赤子を抱いている姿に妙な違和感を感じずにはいられなかった。
白い布にくるまれた赤子は大人しくのぞき込む彼を見上げている。
「! これは?」
赤子の腕に小さな四角いテープが貼られているコトに気がついた。
「免疫を付けるものです」
ああ、わざわざ薄めた毒素を打っているのか。
「外に出て免疫を付けることは出来ませんもの」
「それもそうだね。1日に1本?」
「いいえ、5本ほど」
「! そんなに打って大丈夫なのかね?」
「初めは1本だったんですけど観察の結果、5本でも問題ありません」
「……」
ハロルドは鮮やかな緑の瞳を見下ろした。何もかもを見透かしたようなその目は、ベルハースの言葉を信じさせるように見返してくる。
「では始めようか」
「はい」
女性は近くにあったベビーベッドに赤子を寝かせると、部屋の端にあるデスクに向かった。ノートパソコンを開き、キーを打ち始める。
それを確認して、男はしゃがみ込んだ。手にしていたミニパソコンと資料を見やり、言語について語り始めた。
それに泣くこともなく、まるで理解しているようにただジッとハロルドを見つめていた。彼は恐怖を感じたが、同時に興味も沸き立つ。
この子は本当に全てを吸収するのかもしれない……それは心の奥底から徐々に形を成していく。
もはやベルハースの指示など必要も無く、彼はその子に「相応しい言語」を教え込んでいった。
白い布にくるまれた赤子は大人しくのぞき込む彼を見上げている。
「! これは?」
赤子の腕に小さな四角いテープが貼られているコトに気がついた。
「免疫を付けるものです」
ああ、わざわざ薄めた毒素を打っているのか。
「外に出て免疫を付けることは出来ませんもの」
「それもそうだね。1日に1本?」
「いいえ、5本ほど」
「! そんなに打って大丈夫なのかね?」
「初めは1本だったんですけど観察の結果、5本でも問題ありません」
「……」
ハロルドは鮮やかな緑の瞳を見下ろした。何もかもを見透かしたようなその目は、ベルハースの言葉を信じさせるように見返してくる。
「では始めようか」
「はい」
女性は近くにあったベビーベッドに赤子を寝かせると、部屋の端にあるデスクに向かった。ノートパソコンを開き、キーを打ち始める。
それを確認して、男はしゃがみ込んだ。手にしていたミニパソコンと資料を見やり、言語について語り始めた。
それに泣くこともなく、まるで理解しているようにただジッとハロルドを見つめていた。彼は恐怖を感じたが、同時に興味も沸き立つ。
この子は本当に全てを吸収するのかもしれない……それは心の奥底から徐々に形を成していく。
もはやベルハースの指示など必要も無く、彼はその子に「相応しい言語」を教え込んでいった。