断崖のアイ
オーストリア──ヴァッハウ渓谷。
「サイナス、わたしを呼びつけて何の用?」
暗い灰色の服に身を包んだ女が、黒いローブを着た男を前に腕を組む。粗いウェーブのかかった黒髪にコバルトブルーの瞳が微かな異様さを漂わせていた。
しかしその顔立ちと目つきは妖しさを併せ持ち、色香を放っている。
「魔女の君に受け取ってもらいたいものがあってね」
灰色の瞳を細めて書物を差し出した。金箔に飾られた表紙は古びているものの、それが魔法書である事は女にはすぐに解った。
「どこでこれを……」
喜びに指が動く。舐め回すように表紙を眺め、恐れでもあるのか触れる手が微かに震えていた。
「手に入れるのには苦労したよ」
肘掛けに肘を突き、その手に頭を乗せて薄笑いを浮かべ続ける。
「君は常々、不死について興味を持っていたようだからね。私が持っているより、君が持っていた方が有意義だと考えたんだよ」
「! 本当にいいのか?」
ギラついた目で問いかけると、男は無言で頷いた。
「サイナス、わたしを呼びつけて何の用?」
暗い灰色の服に身を包んだ女が、黒いローブを着た男を前に腕を組む。粗いウェーブのかかった黒髪にコバルトブルーの瞳が微かな異様さを漂わせていた。
しかしその顔立ちと目つきは妖しさを併せ持ち、色香を放っている。
「魔女の君に受け取ってもらいたいものがあってね」
灰色の瞳を細めて書物を差し出した。金箔に飾られた表紙は古びているものの、それが魔法書である事は女にはすぐに解った。
「どこでこれを……」
喜びに指が動く。舐め回すように表紙を眺め、恐れでもあるのか触れる手が微かに震えていた。
「手に入れるのには苦労したよ」
肘掛けに肘を突き、その手に頭を乗せて薄笑いを浮かべ続ける。
「君は常々、不死について興味を持っていたようだからね。私が持っているより、君が持っていた方が有意義だと考えたんだよ」
「! 本当にいいのか?」
ギラついた目で問いかけると、男は無言で頷いた。