断崖のアイ
「!?」

 ギョッとしたが、それが子どもの瞳だと解り小さく溜息を漏らす。

 誰1人として気付かなかった進入に、この子どもは気付いていた……無言で見上げるエメラルドの双眸がゾクリとさせた。

 反応を見せない子どもを抱きかかえ、進入した時と同じように警戒しながら外に向かう。

 刹那──警報がけたたましく鳴り響いた。

「!」

 男は抱きかかえている腕に力を込めて駆け出す。外に出て、そびえる塀に足を速めた。

「きさま!」

 軍服を着た数人が立ちはだかると、男は左手を腰の後ろに回しベルト部分から何かを取り出して投げつける。

「!?」

「うわっ!?」

 それが何かを確認する前に強い光りが男たちの目を攻撃した。明るくなった周囲にゴーグルを乱暴に外すと投げ捨てて、さらにいくつかの物体を手に持つ。

 壁に勢いよく飛ばし、左に感じた気配に思わず視線を移した。

「っ!?」

 轟く爆音の中──そこにいた白衣の男が口の端を吊り上げて妖しく見つめていた事に目を見開く。

 何かを語るように見据える男の瞳は、抱きかかえられている幼子(おさなご)の目をただジッと見つめていた。遠ざかる影はやがて暗闇に消えていく。
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