断崖のアイ
それがベルハースを見た最後だった。
そのあと、ベリルは故郷ともいうべきアルカヴァリュシア・ルセタに再び足を踏み入れる事は敵わなかった──
消えてしまうのだと知ったとき、思い出すのは白い壁しかない国に思いをはせる術などあっただろうか。
それでも、その名がまだ残っている間にわずかでも戻りたかった。
降り立つ事が出来たのは名が消えた5年後……美しい町並みは彼の目を楽しませたが、胸を沸き立たせる望郷(ぼうきょう)の念はついて出なかった。