断崖のアイ
時は過ぎ、現在──名も無き国の白い建物があった、かつての場所に彼は立つ。
そこは広大な森が広がるばかりで、一片たりとて回顧を許さないとでも言うように見上げる空の青が小さく彼の瞳に差し込んだ。
最後に見たベルハースがつぶやいていた言葉は、あとになって知る事となった。
『その導きのままに……』
届かないはずの声が脳裏にこだまする。己の生涯と命を懸けた信仰により成し遂げられた結果に、彼は歓喜しているのだろうか。
「……」
降り注ぐ木々のざわめきにベリルは瞼(まぶた)を降ろした。