断崖のアイ
　彼の細胞核はただの一度も分裂を起こさない──クローン胚の作成が出来ないのだという。加えて、彼には生殖能力が無い事も記載されている。

　その行為は可能だとしても、彼の精子には遺伝情報が含まれていない。これが正しければ、彼はクローンどころか子供すら作る事が出来ないという訳だ。

　青年は不思議に思う事があった。

　連続して造られていた人工生命体、それが何故、彼で終わっているのだろうか。製造の間隔は空いてもおかしくはない。しかし製造は完全にストップしている。

　その後は現存している生命体によって研究は進められていたようだが、どうにも解せなかった。

　彼と話せれば教えてくれるだろうか──画面の姿を見つめる。造られた本人が知っているとも思えないが、訊いてみるのも悪くない。

「話す……」

　ふと思い出し、キーを打つ。

「！」

　今まで彼を捕らえる使命を受けたのは自身を除いて４名、いずれも行方不明となっていた。殺されたという痕跡もなく、逃げるように姿を消している。
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