断崖のアイ
「パスポートはお持ちですか」

 笑顔だが目だけが笑っていない……それに気付いた青年は少し体を強ばらせたが、彼は慣れた手つきで腰の後ろから何かを取り出し女性にすいと差し出した。

「拝見します」

 女性は差し出されたものに驚くこともなく手に取る。20㎝ほどのダガーを革製の鞘(さや)から抜き、その刃を見つめた。

「ご確認いたしました。ベリル・レジデント様」

「えっ?」

 小さく声を上げた青年を一瞥し、彼に目を向ける。

「同じ部屋で良い」

「かしこまりました」

 ダガーを返したあと一礼し、背後からルームキーを選んでドアマンを呼んだ。

「ベリル様です」

「こちらでございます」

 ドアマンの男性は微かに驚いた表情を見せたが、平静を装いエレベータに促す。

「何かあればいつでもお申し付けください」

 部屋のドアを開き会釈してルームキーを手渡した。
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