断崖のアイ
 その製法は数百年の昔に途絶え、現在では完全な形で造り出す事が不可能とされている鋼材だ。現存しているダマスカス鋼もほとんどない。

「ウーツは、サンスクリット語で『硬い』もしくは『ダイヤモンド』の意味でしたね。どこでこれを?」

「魔女が使用するものは特殊だと言ったろう」

「! では、これはその魔女の……」

 改めてダガーを眺める青年に苦笑いを浮かべる。

「どういう訳か、そいつとも結び合わされたようでね。手放しても必ず戻ってくる」

「フロントでのやり取りはどういうことなのですか?」

 返したダガーを腰に納めた彼に問いかけると、目を伏せて表情を微かに曇らせた。

「いつか知る時が来るだろう」

「今はまだ明かせないということでしょうか」

 それには応えず、ジンジャーエールを口に運ぶ。今までにない慎重さが窺えて青年は眉をひそめた。
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