断崖のアイ
「お前に答えてやる筋合いは無いね。ベリルには近づくな」

 それだけを言いに来た……口角を上げながらも、その瞳は鋭く青年を射抜いていた。

「! どういう意味──」

 青年はハッと気がつく。

「わたしを殴ったのはあなたですね」

「よく気がついたな」

 褒めるような言葉の端に、見下したような態度が窺えて多少なりともムッとした。男はそれに鼻で笑い、さしたる警戒心も見せない。

「どうしてなのですか? あなたは組織の中でも屈指の兵士だと聞きました」

「クク……そんなもの、あいつには敵わなかったよ」

「! だからといって何故!」

「お前に解るだろうか、何もかもがどうでもよくなる程の衝撃を受けるということが、どういうものなのか」

 男の目が輝く。

「あの強さと美しさは本物だ。神の隣に座す者に相応しい」

「……」

 常軌を逸している……青年は眉をひそめた。
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