風花
春
それは、真新しいスーツ姿の男女を目にする季節の出来事だった。
その日も、こちらにまで緊張が伝わりそうな彼らを見て、自分の数年前を思い出して含み笑いをしていた。
『こんな会社辞めてやる!』と入社してすぐに同期に宣言した私が、同期の退職を見送り続け、今では同期の女子は私だけになっていた。
めまぐるしく忙しく、理不尽な上司、女性同士の面倒なトラブル・・・。
毎日『今日こそは辞めてやる!』と思いながら、結局、辞める勇気がなく、特別やりたいことがあるわけでもなく、何となく7年という月日が経っていた。
プライベートも「何となく」という感じで、高校から付き合ってる彼氏とは10年が経ち、結婚するタイミングも逃してしまっていた。
かと言って今更別れる特別な理由もなく、何となく過ごす毎日に退屈していた・・・。