風花
「お前はてっきり知ってるかと思ったよ」

綾部は、自分が転勤してから清谷さんと私が全く連絡していないなんて思ってなかったようだ。

清谷さんは癌だった。

初期だから心配はなく、命には別状ないらしい。

『私的にはお見舞い行くのは全然いいけど、奥様嫌がらないかなぁ。綾部はいいけど、私はやめとくよ』

綾部は奥様とは顔見知りだった。
綾部から聞いた話だと、奥様はかなりの美人で恐妻だと聞いていた。
そんなところに行けるワケがない(笑)

「う~ん。大丈夫だと思うよ」

『なんで?』

「奥さん、病院に顔出してないから」

『?』

綾部は言いづらそうに話してきた。

清谷さん夫婦は、一年以上前から家庭内別居状態。
朝が早く、帰りが遅い清谷さんと専業主婦の奥様はすれ違いが増えてしまい、いつしか溝が深まっていたそうだ。
今回の入院についても、特に付き添っていないらしい。

だとしたら、私はあの日、ひどい事を言ってしまった。




清谷さんに何て言ったらいいか分からず、結局、一度もお見舞いには行けないまま、清谷さんの退院日が過ぎた。
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