カセットテープ
序章
 雲一つとない青空。
 快晴。
 季節はまだ、夏の陽光が残っている秋。
 何処までも続く青々とした空を見れば、鬱蒼とした気持ちも晴れるぐらいの清々しい天気。
 しかし、空とは反対に住宅地のある一角の大きめの家やその周辺には、黒い服で身を包んだ人たちがいた。
 同じ学生服を着た人達もいる。
 そこに一人だけ違った学生服を着ている青年が歩いていく。
 肩まで伸びた少し長めの黒い髪に、切れ長の二重で整った顔立ちをしている。
 だが、どこか冷たい雰囲気が外見から感じさせられる。
 青年は、月本家の葬儀と書かれた看板に目を向けたあと、人の多い入り口の前にある受付へと歩いていく。
 人をかき分けていたら、喪服を着た二人の女性の声が耳に飛び込んできた。
「可愛そうよねえ、まだ高校二年生で亡くなるなんて」
「なんでも、交通事故だそうよ。トラックに撥ねられたらしいと聞いてるわ」
「そうなの、私達も気を付けないといけないわ」
「そうねえ」
 交通事故で亡くなった人を世間話のように話す態度に、青年の表情が強張った。
 だがすぐに無表情になり、受付の前で名前を書き、玄関前のスペースに足を運んだ。
 入ると、学生服を着た女の子が膝を地面につけ肩を抱いて泣き腫らしていた。その傍には二人の女の子が付き添っている。
 咳き込むようにして泣いている女の子に、傍にいる同級生の女の子が慰めるようにして声をかける。
「海恋(みれん)、晴司くんはあなたに泣いてほしいとは思ってないよ」
「そうだよ。笑って送ってあげよう」
「う、うん」
 泣いている女の子はくぐもった声で返事をし、小さく頷いた。
 その場を横目に見ていた青年は、玄関前スペースをあとにして、家のなかに入っていく。
 故人が収められた場所では、その両親が来た一人一人にお辞儀をして、短い会話をしていた。そして焼香の前まで来て、一回二回と冥福を祈る。
 青年は、故人の両親の許までいき、深々とお辞儀をする。
「晴司が亡くなったと聞き、来ました」
「来てくれてありがとう、響(ひびき)くん」
 やつれた顔で無理に笑顔をつくり、響と呼んだ青年に向けた。目じりのしたが乾燥していて、涙の跡が残っている。
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