カセットテープ
 校内にいる誰もが、一体何のことかわからず、きょとんとしたことだろう。
 校内のスピーカーから更に怒声が流れてくる。
“お前はまだそんなことを言うのか! 一体いつになったらまともな考えた方ができるんだ!?”
 怒声の主は、どうやら目の前にいる誰かを怒っているようだった。カンカンになっているであろう様子が浮かんできそうなほどである。
“ちょ、ちょっと止めてくださいよ、わざわざ放送室貸し切ってまで怒らないでくださいよ。しかも電源オンにして校内で流して、生徒達が聞いてますって!”
 怒られている主は慌てたように早口にまくしたてた。
 スピーカーから流れてきた声を聞いて、弓道場にいる生徒達がシーン、と静かになった。それ以外の場所では、笑い声が上がっていた。
「……部長、やっぱりこの声は……」
「ああ、顧問の先生と生徒指導部の部長、赤原先生らしいな」
「………」
「………」
 なんともいえない空気にキョウと後輩男子は押し黙った。
“恥をかけ、芝本!”
 赤原先生に怒られていたのは、芝本先生だった。もちろん弓道部の顧問の先生でもあった。
“十分恥をかいてますよ、放送されてるんですから”
“いいや、もっと恥をかいて性根を叩き直せ! それと、ここへ来るまでに俺に言ったことをもう一度話せ”
 芝先の渋々といった感じの口調がスピーカーから流れてきた。
“ですから、俺のクラスの男子の意見がキャバクラのような店を出したいそうで、女子の意見が喫茶店をしたいそうなんです。二つの意見をどうしたらいいか考えました。そうしたらいいのが浮かんできたんですよ”
“で、浮かんできたのは何だったんだ”
“それはですね、二つの意見を足して二で割ったら簡単に答えが出てきたんです。それがキャバ茶店です”
 キャバ茶店という発言を聞いた瞬間、弓道部で笑いが漏れた。それ以外の場所では、ドッと笑い声がたくさん上がった。
 キョウは、はあ、と溜め息を吐き肩をすくめたのだった。
“芝本、本気でそんなことを言ってるのか?
“はい、そうですけ――”
“バッカモーーーン!”
 二度目の雷のような怒声が学校中に響き渡った。あまりの大きな声にキョウの耳が、キーン、と耳鳴りがなる。

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