カセットテープ
“わ、わかりました。すぐに考え直しますから怒らないでくださいよ。あ、それと学校に残ってる2年D組の生徒達は来週の月曜日までに文化祭の出し物を考え直しといてくれ”
“放送を私物化するな!”
“えええ!? どっちが――”
 ここでプチンとドタバタした放送が切れた。
 この放送を聞いていた隣の童顔の後輩男子が、同情するような目をキョウに向けてきた。
「部長って部活以外にも苦労しますね」
「まあな」と、引きつった顔でそう言った。


 時刻は夕方の六時となり、弓道部の部活は終わって下駄箱でキョウは、上履きからスニーカーに履きかえていた。
 下駄箱から正門に向かいながら、キョウは視線を上げた。空は大部分が橙色に染まっていて、彼方に見える空には、夜の底がはい上がっている。
 季節はもうすぐで秋がこようとしているけれど、またまだ生暖かい風がそれを感じさせないでいた。
 正門から出たキョウに後ろから声が掛かる。
「キョウ兄ー!」
 ドンっとキョウの背後から誰かが抱きついた。
 キョウは首に回された腕を優しく振りほどき、抱きついて来た人物を見やった。
「咲夜、俺を見つけるたびに抱きついてくるのは止めろ」
 キョウの妹――咲夜はどうして、と言いたげな顔でクリクリした瞳を向けてきた。
「兄妹の関係なんだから別にいいじゃん、抱きついたって」
「良くないから言ってるんだろ。こそこそこっち見ながら他の生徒達に噂話されるから、やめろよ」
 キョウは周りに視線を向けた。つられるようにして咲夜も向く。まばらだが下校している生徒達がキョウと咲夜を見ながら何やらこそこそと話している。
「わかったか?」
「うーん……わかったよ」
 咲夜は不満そうな顔で渋々ながら了承した。けれど、あくまでも咲夜としては建前で言っただけで全く止めるつもりはなかった。
 咲夜が破顔してキョウの手を繋ぎ歩きだした。
「ねえ、今日の放送聞いたよね!?」
「ああ、聞いたよ」
 繋がれた手をキョウはほどこうとしなかった。唯一彼が邪険に扱わないのが咲夜だった。もし他の人が繋いできたら迷わず振り払うだろう。
「芝本先生って面白いね、吹奏楽のみんなも笑ってたよ。おかげ練習どころじゃなくなっちゃったけどね」
 咲夜はその時のことを思い出して笑った。
 二人は家に並んで着いたのだった。
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