カセットテープ
キョウの周りには銀杏の木や柊の木、杉の木など多種多様な木々が取り囲んでいる。
緑の多い空間だ。
その空間がキョウは好きで、学校のある日は毎日欠かさずこの場所に来る。
友達付き合いが苦手な彼にとって唯一の友達と呼べる存在は昨日亡くなり、この場所だけが安らげるようになってしまった。
キョウはあんパンを一口噛り、柊の木を見上げる。
昨日あれから帰り、父さんが持っているカセットテープを再生できる古い機器を貸してもらい、晴司の声が吹き込まれたテープを再生した。
――あ、あ、あ……よし、これで録音できてるかな。キョウ、聞こえてるよね――
キョウは学生服を着たまま亡くなった友人の声を複雑な表情で聞いていた。
――いきなりこんなテープ渡されて混乱してるかな? もちろん仕方ない事だと思う。でもね、これを渡されるのは僕が死んでからなんだ。今聞いてるってことは、僕はこの世に居ないって事になってる――
カセットテープから聞こえてくる友人の楽しげともとれる口調に、キョウは、その心中が理解出来なかった。何がおもしろく自分が亡くなった後に聞いてもらうテープに声を録音するのかわからない。
無機質なカセットテープから晴司の声が流れてくる。
――どうしてこんなテープ作ったんだ? テープで伝えるんじゃなくて直(じか)に言えよ。ってキョウなら思ってるよね、まあそれが普通なのかな。こういうテープってさあ、死ね事がわかってる人が最後に伝えたいことをテープに残す死者からのメッセージってテレビでも言うよね――
キョウは未だ何を言いたく、何を伝えたいのか晴司の意図がわからなかった。死ね事がわかってる人が残すテープを作った晴司は、じゃあ死期がわかって作ったのか。
そんなはずはない。晴司が亡くなったのは病気で亡くなったんじゃない。
晴司は自分から車に飛び込んだわけでもなく、突発的な交通事故でじゃないか。
それじゃあ、この交通事故は――
キョウは頭を左右に何度も振った。自分の頭に過ったありえないこと振り払うために。
そう。それは本当にありえないこと。
カセットテープからは晴司の息遣いが聞こえてくる。口を開くのがわかる。
――僕は死ぬのがわかってたのか……それについては、今答えるのは止めとこう。このことはキョウ、考えないようにしてほしい――
緑の多い空間だ。
その空間がキョウは好きで、学校のある日は毎日欠かさずこの場所に来る。
友達付き合いが苦手な彼にとって唯一の友達と呼べる存在は昨日亡くなり、この場所だけが安らげるようになってしまった。
キョウはあんパンを一口噛り、柊の木を見上げる。
昨日あれから帰り、父さんが持っているカセットテープを再生できる古い機器を貸してもらい、晴司の声が吹き込まれたテープを再生した。
――あ、あ、あ……よし、これで録音できてるかな。キョウ、聞こえてるよね――
キョウは学生服を着たまま亡くなった友人の声を複雑な表情で聞いていた。
――いきなりこんなテープ渡されて混乱してるかな? もちろん仕方ない事だと思う。でもね、これを渡されるのは僕が死んでからなんだ。今聞いてるってことは、僕はこの世に居ないって事になってる――
カセットテープから聞こえてくる友人の楽しげともとれる口調に、キョウは、その心中が理解出来なかった。何がおもしろく自分が亡くなった後に聞いてもらうテープに声を録音するのかわからない。
無機質なカセットテープから晴司の声が流れてくる。
――どうしてこんなテープ作ったんだ? テープで伝えるんじゃなくて直(じか)に言えよ。ってキョウなら思ってるよね、まあそれが普通なのかな。こういうテープってさあ、死ね事がわかってる人が最後に伝えたいことをテープに残す死者からのメッセージってテレビでも言うよね――
キョウは未だ何を言いたく、何を伝えたいのか晴司の意図がわからなかった。死ね事がわかってる人が残すテープを作った晴司は、じゃあ死期がわかって作ったのか。
そんなはずはない。晴司が亡くなったのは病気で亡くなったんじゃない。
晴司は自分から車に飛び込んだわけでもなく、突発的な交通事故でじゃないか。
それじゃあ、この交通事故は――
キョウは頭を左右に何度も振った。自分の頭に過ったありえないこと振り払うために。
そう。それは本当にありえないこと。
カセットテープからは晴司の息遣いが聞こえてくる。口を開くのがわかる。
――僕は死ぬのがわかってたのか……それについては、今答えるのは止めとこう。このことはキョウ、考えないようにしてほしい――