カセットテープ
 晴司の悲しそうな声がキョウの耳に入ってくる。
 ――とにかく、キョウのもとにこのテープがちゃんと渡せたこと。それが僕にとって重要なことなんだよ――
 晴司はいつも通り穏やかな声で、気を取り直して話しだす。
 この声にキョウは、笑顔で録音してる晴司の姿が浮かんだ。
 ――そろそろ本題に入るよ。何故、僕がこんなテープを作ったのかはのちのちわかるから置いとくとして、これから三ヶ月、僕の代わりにしてほしいことがあるんだ――
 亡くなる前に出来ないものなのか、と晴司に言いたいキョウは、何故か再生機器を軽く叩いた。本当は晴司に叩きたいが、亡くなってしまったため再生機器を代わりに叩くしかない。
 ――今叩いたでしょ? わかりやすい性格だなあ――
「……は?」
 あまりのことに呆けたような声を上げる。
 口をポカンと開けキョウは唖然とした。亡くなった人間がどうして今やった動作がわかる。
 急いで部屋を見回し晴司の姿を探した。居るはずがないのに思わず探してしまう。
 また再生機器に視線を戻した。
「晴司……お前、本当に死んだんだよな」
 キョウは再生機器に向かって問い掛けた。返ってこないのはわかってはいるが、問い掛けられずにはいられない。
 返ってくるのは再生機器から流れてくるノイズ音だけだった。
「そうだよな……昨日葬儀に行ってきたばかりなのに、何してんだろ俺……」
 再生機器と向き合って独り言をぼやくキョウ。背を後ろに倒しあぐらの姿勢から寝転がる。
 ――……どうして叩いたことわかったのか、キョウにはわかる?――
 わかるわけないだろ、と心の中で言い返す。
 ――そっかあ、わからないんだったら教えてあげる。それは、僕たち兄弟みたいな間柄だからだよ。顔見れば何考えてるのかわかるっていうやつね――
 今顔見てるのかよ、俺が見えないだけで。
 天井を見つめながら、カセットテープに声を録音した晴司に毒づいた。
 ――今は顔を見れないけど、なんとなくわかるんだ。……ごめん、大分話し逸れちゃったね――
 カセットテープから流れてくる晴司の声は、笑い声だった。キョウにはどうして笑えるのかわからない。
 それに、死人に口なしという言葉があるけど、あれはデマだなと、今現在、生きているかのように話している晴司の声を聞けば納得してしまう。
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