カセットテープ
 録音された晴司の声がゴホンと一度咳払いする。
 ――じゃあ、本題の続きを話すね。えっと、三ヶ月間死んだ僕の代わりにしてほしいことなんだけど、三ヶ月間毎日してほしいんじゃなくて、週毎の土曜日にしてほしいんだ――
 キョウはカセットテープから流れてくる晴司の声に耳を傾けながら寝返りをうった。三ヶ月の間、毎週土曜日に何をすればいいんだ。
 まだはっきりしない内容に、キョウがカセットの中の晴司に心の中で問い掛ける。
 ――してほしいことについては、毎週土曜日に僕が吹き込んで置いたこのカセットテープを聞いてもらって、その時その時に指示を出すからちゃんと聞いてよ、キョウ――
 キョウは寝転んでいた身体を起こし、再生機器に向き直る。
 そして、窓から夕暮れの明かりが夜へと変わるのを見て、消えていた部屋の電気を付けた。
 眩しい蛍光灯の明かりにキョウは目を細める。
 ――ねえ、キョウ。僕がさあ……ううん、やっぱりいいや。キョウ、停止ボタン早く押して――
 何か言い掛けようとしたが晴司は思いとどまり、停止ボタンを押すようキョウに促す。
 変に思いながらもキョウは、晴司の言葉通りに再生機器の停止ボタンを押した。
 キョウは再生機器からカセットテープを取出し、眺める。
 これから三ヶ月の間、晴司の声が指示する通りに動いて何があるのだろうか。それに、どうして俺なんかにこんなテープを残しておく必要がある。
 わからないことだらけにキョウは天井を仰いだ。
 カセットテープから流れてくる晴司の声が、俺の知っているいつもの晴司と何処か違うように思えた。何処が違うのかと聞かれれば答えれようがないけど、でもやっぱり違うと思う。
 キョウは、部屋に貼ってあるカレンダーの前に行き、目を通す。
 次にカセットテープを再生する日は土曜日。
 それはいつか――
「明後日か……早いな」
 今日は木曜日。明後日は土曜日。
「また、お前の声を聞くことになるんだな、晴司」
 考え深げに亡くなった友人の名前を口から出す。
「キョウ兄ー! ご飯だよー!」
 一階の階段から妹――咲夜の大きな声がキョウの部屋まで響いてきた。
 手に持っているカセットテープを机に置き、キョウは学生服から上下のジャージに着替える。
「今行く!」
 大声で返事をして部屋から出ていった。

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