カセットテープ
柊の木にもたれかかりいつのまにか夢を見て眠っていたキョウは、寝呆け眼な目を擦り大きな欠伸をした。立ち上がり、背筋を伸ばす。
校舎に戻ろうとしたとき、周りの木々を縫うようにして校内放送が流れてきた。
“2年D組の各務響くん。至急、職員室に来て下さい。繰り返します――”
校内放送でまさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったキョウは、呆気に取られたような表情をした。
いったい何故自分が……。
しかし、すぐに思い当たる節があった。
めんどくさいと思うも、行かなければならないことに足が重くなるのを感じる。
キョウは校舎に戻るのだった。
職員室前。
「失礼します」
進学校ならではの礼儀正で職員室へと入った。コーヒーのいい匂いが鼻をくすぐる。
隙間が空くことなく並べられたデスクを見つつ、呼び出した担任の芝浦先生の前まで行く。
「おお来たか! まあ、座れよ」 椅子を差出しキョウを座らせた。
「まあ、なんだ……呼ばれた理由わかるか?」
眼鏡を掛けて温厚な顔を芝浦先生はキョウに向けた。
四十歳半ばで人当たりがよく、なかなか人望に恵まれている先生だ。生徒達にも人気がある。悪い意味で。
「わかってますよ、芝先。学校抜け出したことでしょ」
芝先、これが芝浦先生の生徒から呼ばれている呼称だ。
「なんだ、わかってるのか。まあ、抜け出した理由は知ってる。でも、何か先生に言うなりしてくれないとなあ、いきなり生徒がいなくなったって騒ぎになりかねないだろ」
芝先はキョウを気遣って面白可笑しく話した。
生徒の気持ちを理解しようと努め、一人一人の意見を尊重しようする素晴らしい先生であり、これはいい意味での芝先である。
「抜け出したいなら、こっそり言ってくれれば先生だって抜け出す手伝いぐらいするぞ」
生徒に教職者としてあるまじき問題発言を躊躇うことなく言ってのけた。
そう、これが悪い意味での芝先である。
一度や二度ならまだしも、それ以上に生徒の抜け出すための手引きなど、教育界を揺るがしてもおかしくないことを多々やってしまうのだ。
そのうえ、これがばれて問題になったこともある。教師を辞めさせられる所まで話が進んだりもした。
だが、生徒やその親御さん達の支持もあり、なんとか辞めずに事が済んだのだった。
校舎に戻ろうとしたとき、周りの木々を縫うようにして校内放送が流れてきた。
“2年D組の各務響くん。至急、職員室に来て下さい。繰り返します――”
校内放送でまさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったキョウは、呆気に取られたような表情をした。
いったい何故自分が……。
しかし、すぐに思い当たる節があった。
めんどくさいと思うも、行かなければならないことに足が重くなるのを感じる。
キョウは校舎に戻るのだった。
職員室前。
「失礼します」
進学校ならではの礼儀正で職員室へと入った。コーヒーのいい匂いが鼻をくすぐる。
隙間が空くことなく並べられたデスクを見つつ、呼び出した担任の芝浦先生の前まで行く。
「おお来たか! まあ、座れよ」 椅子を差出しキョウを座らせた。
「まあ、なんだ……呼ばれた理由わかるか?」
眼鏡を掛けて温厚な顔を芝浦先生はキョウに向けた。
四十歳半ばで人当たりがよく、なかなか人望に恵まれている先生だ。生徒達にも人気がある。悪い意味で。
「わかってますよ、芝先。学校抜け出したことでしょ」
芝先、これが芝浦先生の生徒から呼ばれている呼称だ。
「なんだ、わかってるのか。まあ、抜け出した理由は知ってる。でも、何か先生に言うなりしてくれないとなあ、いきなり生徒がいなくなったって騒ぎになりかねないだろ」
芝先はキョウを気遣って面白可笑しく話した。
生徒の気持ちを理解しようと努め、一人一人の意見を尊重しようする素晴らしい先生であり、これはいい意味での芝先である。
「抜け出したいなら、こっそり言ってくれれば先生だって抜け出す手伝いぐらいするぞ」
生徒に教職者としてあるまじき問題発言を躊躇うことなく言ってのけた。
そう、これが悪い意味での芝先である。
一度や二度ならまだしも、それ以上に生徒の抜け出すための手引きなど、教育界を揺るがしてもおかしくないことを多々やってしまうのだ。
そのうえ、これがばれて問題になったこともある。教師を辞めさせられる所まで話が進んだりもした。
だが、生徒やその親御さん達の支持もあり、なんとか辞めずに事が済んだのだった。