彼女はきっと振り向かない



「うち、来る?」



その言葉に深い意味なんてないのに、胸が熱くなった。

おいおい、こんなときに盛るなよ、俺。



「うん」


「もう誰もいないから」


「うん」


「変な相良くん。さっきから、『うん』しか言ってないよー」


「うん」



だって、お前が無理に笑おうとするからだろ。



「さすがに好きな人のキスシーン見たら、へこむよね」


玄関先で、そんなことを口走った七尾。


気づいたら、そんな彼女を自分の腕の中に閉じ込めていた。



「無理すんなよ」


いつもの俺なら気の利いた言葉の一つも言えるはずなのに。


なんでこいつの前だとこんなに不器用なんだ?



もしかして、これが「好き」ってことなのか。



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