白狐の書


 それにしても。と、本当に今更だが、随分と辺りが静かだ。

 人が轢かれたというのに、なぜが人間が集まってこない。

 轢いた人間すら、車から降りてくる気配がない。

 せめて、轢き逃げという形で逃走するならば、そこまで訝しむこともなかったのだが。





 ……おいおい、なんなんだよ。野次馬も集まってこねぇし。

 つうか、救急車くらい呼んでくれたっていいだろ!?





 痛みに耐えながら、下らない悪態を内心で繰り広げる。

 しかし、本当に奇妙だ。

 人の気配は、今、まったくといっていいほどにない。

 というよりも、時間が止まってしまっているような──


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