白狐の書
「──久方ぶりに人間界に来てみれば……なんだ?お前、死にかけているのか?」
「……?」
急に降ってきた言葉は、どこまでも冷静だった。
というよりも、冷たくて、静かだった。
普通、死にかけている人間を見つけた場合、もう少し慌ててくれてもいいはずなのだが。
降ってきた言葉に、そんな優しさは微塵も感じない。
「おい、なんとか言ってみたらどうなんだ?この私が話しかけてやっているんだぞ」
「……っ……、無理っ」
虫の息なのだから、それくらいしか言葉が出ない。
目前に見える女の顔は、妙に不機嫌そうだが、それに構ってもいられない。
……つうか、救急車呼んでくれたりしねぇのかよ。
真っ白な髪に、真っ白な着物を着込んで、ついでに、真っ白な耳を生やしている。
その女は、酷く美しく、酷く冷たい眼差しを俺に向けていた。
──……真っ白な、耳?
「……っ!……耳っ」
掠れた声で、なんとかそう呟くと、女は、満足そうに笑顔を浮かべた。