白狐の書
痛みもない。傷もない。在るのは、血だらけの俺と、真っ白な獣耳女だけ。
理解できるはずがない。
本を適当に開いて、たったあれだけの短い文を読んで、なぜ俺から傷が消えているのか。
確かに血だらけではあるが、それだけだ。
確かに口の中に血の味が充満しているが、それだけだ。
自分の両手を見つめながら、俺は困惑するしかない。
何が起こっているのか、軽く理解の範囲を超えているのだ。
「どうした?何を呆然と自分の手を見つめている?」
立ち上がったばかりの獣耳女は、キョトンとした顔を俺に向け、しゃがみ込んできた。
意識と視界がはっきりしている中で見るそいつの顔は、先程とは違い、幼く見える。
先程までは随分と大人びているように見えたのだが、「女」という表現も、間違っていたようだ。
歳も、俺と近いように思う。同い年か、歳上だとしても、一、二歳の差しかないように見える。
「女」というよりも、「女子」と言った方がしっくりくるような歳だろう。