白狐の書
「……私は、ただの九尾の白狐だよ。それだけだ。ただ白い狐で、ただ長生きで、ただ尻尾が九本あるだけの……高貴で偉大な狐であるだけだ」
「最後の方は置いといて、とりあえず、白狐ってのは白狐様の名前じゃねぇんだな」
「……まぁ、そうなるな。吸血鬼ともヴァンパイアとも呼ばれてきたが、白狐は一番気に入っているだけだ。他にも、妖狐や九尾とも呼ばれている存在か」
「で、名前は?」
「名前?……白狐だろう?」
「白狐ってのは、他人が勝手に呼んでるだけのやつだろ。俺が訊いてんのは本名」
「な、なぜそんな下らないものを知りたがる。全く、人間とはいつの時代も不躾な生き物だな」
「そりゃどうも」
軽く礼を言ってやると、なぜか物凄い眼力で睨まれた。
冷めた眼差しが突き刺さるが、明後日の方向を向いて回避する。
すると、やがて白狐は諦めたように口を開いた。