白狐の書
「この本が万能だとでも思っていたのか?」
「違ぇの?」
疑問系に対して、俺も質問をぶつける。
すると、白狐の書を抱き締めたまま、獣耳をピクピクと動かし、狐は溜め息混じりに言葉を紡いだ。
「狐ごときから生まれた本が、万能であるはずがないだろう。この白狐の書ができることは、せいぜい、『拒絶』に関わることだけだ」
「なんだそれ?」
「否定したいことや受け入れ難いことを、拒絶し、なかったことにする。お前にも使っただろう?『癒えぬ傷の無き事』という『拒絶』を」
「んじゃあ、今時間が止まってんのはなんなんだよ?時間は拒絶できねぇだろ」
「できるだろ、馬鹿かお前は。これは、三十二節の『進む時の無き事』だ。進む時間などはないという意味で、否定しているのだから、拒絶に入る」