地を蹴って羽ばたく
モワゾーは書店の陳列棚に立派に並んだ背表紙のなかから、一冊の書籍を選んだ。製本されたばかりのようの、真新しい装丁であった。
……、<ブルーヴォレの飛行免許指南>と、表紙におおきくゴシック体の黒字で印刷されてある。
ずうっと以前から_____。
そう本当に昔時からモワゾーが求めていた、ヴォレの飛行免許を取る方法を指南する内容の指南書である。
そうそう、この本よ……、モワゾーはちいさくうなずいてみせた。
本をみて、まるで心が奮い立つ“なにか”を感じたように、モワゾーは手に取った書籍の表紙を、熱気を帯びた両目でみすえ始めた。奔放
書の趣旨にそった、ブルーヴォレの澄みきった晴天の大空を飛行する姿が広大に描かれている、____本当にこんなふうにいつかじゃない、そうすぐ近くのときに飛行してみたいわ。
すぐにモワゾーの脳裏に浮かび上がった夢想は、蒼穹に染まった空をまるで軽やかな鳥のように飛び舞うブルーヴォレか、またはルージュヴォレ、わたしのような妙齢の女の子にはその形のヴォレじゃないと限界があるの……、に自分がのった壮観な眺めだった。
むろん、モワゾーだけにまぶたの裏でみえる空想にしか過ぎない。