私の依頼主さん。
宗田さんは何も言えず、黙って私をガラスケースから出した。

でも打撲傷で、体を上手く支えられない。

私は壁に手をつこうと、壁際に寄る。

すると男の人が私の腰に手を回して、私を支えた。


「も、申し訳ございません!」


私はすぐ離れようとしたが、彼の腕に力が入って逃げられない。


『気にしないでよ。
車まで、こうしていても構わないかな?』


そう言って、男の人は優しく笑う。

シャンプーのような、石鹸のような、清潔感のある香りがする。


『では、ありがとうございました。
お客様、お名前をご記入ください』


宗田さんが彼の前に、請求書を出した。

私を支えたまま、彼はサラッと書いていく。


【瀬川 透】

――せがわ とおる様。


私の依頼主さんが、契約を交わした瞬間だった。

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