私の依頼主さん。
「ごめんけど、君に頼みたい仕事があるんだ。
だから、返品できない」

『透くん……』


私の腰にまた手を回した彼は、涼しく笑った。

お母様は戸惑い顔。


「帰らないで、くれるかな?」


そう言って私を見た依頼主さんの目が、少し揺れて見えた。


「…でも、」

「君にしか頼めないんだ」

「……」

「働きたいでしょう?」

「…はい」

「じゃあ返品しない(笑)」


また依頼主さんは笑った。

やっぱり、優しい人だ。
少しだけ、泣きたくなるくらい。

もちろん、泣いたりしないけど。


『あまり乗り気ではないけど、これからよろしくね…』


軽く溜め息をつきながら、お母様は私を見た。


私はお辞儀をした。
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