私の依頼主さん。
―――ふわり。


身体中を、あの清潔な香りが包んだ。


「……ごめん。
やっぱり、返品したくない……。
ちゃーちるが、金持ちの依頼主の所に行きたいんだと思ってた。
でも……やっぱり俺が雇いたい」


そう言って、依頼主さんは鼻を啜った。

依頼主さんは、泣いていた。

私は顔を離して、依頼主さんの目元にハンカチをあてる。


「…綺麗なお顔が台無しです。
私の為に、涙を流さないでください。
涙がもったいない」

「ちゃーちる…」


私を見た後、依頼主さんはまた優しく私を抱き締めた。

は、恥ずかしい。


人とこんなに近い距離で触れ合ったこともない私は、体温が上がるのを感じた。

依頼主さんは、私に対して"俺"と言ってくれる。

それって、気を許してくれた証拠でしょ?


しばらく経った後、依頼主さんは「ごめんね」と言って恥ずかしそうに笑った。

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