私の依頼主さん。
「はい」


なるべく普通に返事をした。

今は、理由を知らない方がいい。

聞いたら、いけない気がする。


「ありがとう。
じゃあ今から行こうか」

「…どこへ?」

「職場に案内するよ」


依頼主さんは、涼しげに言った。


車まで行くのに、やっぱり依頼主さんは腰に手を回して支えて歩いてくれた。


『と、透…?』


すると、後ろから澄んだ声が聞こえた。

とても澄んでいて、響く声だった。


「あ…姉ちゃん」


依頼主さんは立ち止まる。

自動的に私も立ち止まる。


『…透もついに決めたのね。』

「いや、違うんだよ」

『大丈夫よ。
お姉さん、二人を応援するわ』

「ちょっと待ってよ」

『いいの。
わかってるわ。
お母さんは反対したんでしょ?』


ため息を吐きながら、依頼主さんは声のする方に振り返る。

自動的に私も振り返る。


『そうよね。
だってお母さんは透好きだからね。
そんな後ろ姿の彼女…………。』

「……。」

「……。」


3人の間に、しばらく沈黙が流れた。

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