異本 殺生石
「でも今日はもう夜遅いし、フーちゃんも一晩ぐらいは休んだ方がいいよ。じゃあ、ゲンノは明日の朝9時にまたここでな」
「はい?あ、あのう、陽菜、まさか俺もその時間旅行に一緒に?」
「明日から学校は三連休なんだから問題ないだろ?多分三日後までには帰って来れるって」
「いや、そっちかよ?心配すべき事は」
「ほ、ほう」
 陽菜は両手の指をパキポキと鳴らして見せながら玄野をじっと見つめながら言った。
「今この場から生きて帰れなくなってもかまわないってんなら無理にとは言わないぞ」
「いや、それ自体が既に無理にと言ってるんじゃないか。ああ、分かったよ。行くよ、行けばいいんだろ」
 そう言いながら、しかし玄野はそれほど嫌そうな感じではなく、陽菜と話しながらもその視線がチラチラとフーちゃんの方に向いているのを陽菜は見逃さなかった。
「待て、なら僕も一緒に行く」
 昭雄が話に割って入った。
「そんな危険な時間旅行に未成年の君たちだけを行かせるわけにはいかんだろう。保護者として同行してやるよ。それに、そのフーちゃんの話していた事も気になるからな」
「きゃあ、兄さん!」
 と叫んで飛びつこうとする陽菜を昭雄が右腕を一杯に伸ばして頭を押さえつけ引き離そうとする。
「ああん、いいじゃない兄さん。ついこの前まで一緒の布団で寝てたじゃない」
「おまえが幼稚園の頃の事を『ついこの前』とは、世間一般では言わん!」
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